神戸市立神戸アイセンター病院は、iPS細胞(人工多能性幹細胞)からつくった網膜の細胞を移植する治療を、厚生労働省に早ければ2025年1月にも入院や検査の費用に公的保険を利用できる「先進医療」として申請することが分かった。認められればiPS細胞を使った細胞移植治療では初となる。
神戸アイセンター病院のチームは、「網膜色素上皮不全症」の患者の目に、iPS細胞からつくった網膜色素上皮細胞を、髪の毛ほどの太さのヒモ状に加工して移植する治療法の開発を進めている。
「新技術・新開発」カテゴリーアーカイブ
住友ファーマ iPS網膜シート 25年度米で移植 臨床試験
製薬大手の住友ファーマ(本社;大阪市)は11月29日、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から光を感じる網膜のシートをつくり、目の難病「網膜色素変性症」に患者に移植する臨床試験を米国で開始すると発表した。
米マサチューセッツ州の病院と協力し、網膜シート(直径約1ミリ)を患者12人に移植。国内の研究よりも細胞数を増やし、安全性や視機能の改善などの有効性を確認する。視細胞を含むシートを国内で作製して米国に空輸し、2025年度に1例目の移植を目指す。
網膜色素変性症は、暗いところでものが見えにくくなったり、視野が狭くなったりする難病。光に反応して神経に情報を伝える「視細胞」が減少して発症する。国内に約3万人、米国では約8万人の患者がいると推定されている。
阪大チーム 声失った患者そっくりの人工音声 AIアプリ開発
大阪大などの研究チームはこのほど、病気で声を失った患者の口元の動きから話そうとしている内容を人工知能(AI)で推定し、本人そっくりの人工音声を流す「読唇アプリ」を開発した。これを使えば患者の意思疎通が楽になるとし、チームは実用化を目指す。大阪大病院で患者に試験的に使ってもらうことを計画している。
チームは日本語の5種類の母音に加え、前後の音の並びによって変化する口元の動きを16種類に分類した「口形コード」という手法に着目。まず話している口元の膨大な映像と、その動きに対応するコードをAIに学習させ、口元の動きをコードに変換する手法を開発した。さらに別のAIを使い、コードを自然な日本語に置き換える2段階のシステムで、話そうとしている言葉を推定できるようにした。これらと、事前に録音した患者本人の声をもとに、人工音声でそっくりに再現するシステムも組み合わせ、アプリを完成させた。
JR東海 カーボンニュートラル実現へ水素動力車両開発推進
JR東海は11月26日、政府の2050年カーボンニュートラル政策に呼応、同社が推進している取り組みの一環として、軽油を燃料とする従来の気動車に代わる、水素を燃料とした「水素動力車両」の開発状況を明らかにした。この水素動力車両はHC85系ハイブリッドシステムをベースとし、動力源として燃料電池と水素エンジンを検討している。
今回、水素エンジンハイブリッドシステムの試作機が完成した。これは産業用のディーゼルエンジンをベースにiLabo(本社:東京都中央区)が開発した水素エンジンとJR東海のHC85系で使用している発電機、車両制御装置、蓄電池を組み合わせたシステム。水素エンジンは高い耐久性と出力密度、および高負荷域での高い効率が期待でき、また燃料電池と比較して低い水素純度でも運転できる特長がある。
阪大チーム がん免疫療法の副作用のたんぱく質を特定
大阪大のチームはこのほど、「がん免疫療法」の副作用と関わるたんぱく質を、マウスを使った実験で突き止めたと発表した。論文が科学誌サイエンスに掲載された。同チームは、このたんぱく質の働きを抑えれば、がんを攻撃する免疫細胞によって起きる副作用を軽減できる可能性があるとしている。
免疫細胞には、ウイルスやがんを攻撃して体を病気から守る「キラーT細胞」などと、逆にキラーT細胞などの働きにブレーキをかけて過剰な免疫反応を抑え、結果的にがんを保護することもある「制御性T細胞(Tレグ)」が存在する。免疫療法では、これらの免疫細胞に働きかけ、効果的にがんを攻撃させる複数の薬が開発されているが、全身で炎症が起きるなどの副作用が出やすいことが課題となっている。
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ブタの腎臓 サルに移植成功 国内初の臨床応用めざす
腎臓病の根本的治療法確立に向け、この一環として、明治大学発のスタートアップ、ポル・メド・テック(所在地:川崎市)は11月25日、他の動物に移植しても拒絶反応が起きないように遺伝子を改変したブタの腎臓を、カニクイザルに移植し、成功したと発表した。
鹿児島大学、京都府立医科大学、ポルメド社などが24日、共同で実施した。カニクイザルの腎臓を2つとも取り除き、ポルメド社が育成した月齢約3カ月のブタの腎臓1個を移植した。移植した腎臓が機能しているとみられ、移植後、サルの排泄器官から尿が出るのを確認した。
これは国内初の臨床応用に向けた実験で、腎臓病に苦しむ患者への移植技術の確立を目指す。患者への移植は数年後に実現する可能性があるという。今後数カ月間で最大8頭のサルに同様の移植を実施し、患者への移植の具体的な手法や薬の投与方法、適切な体調管理の方法の確立を目指す。
阪大チーム iPS角膜 年度内に治験へ 患者4人に移植, 視力回復
大阪大のチームは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作製した角膜細胞のシートを症状の重い目の病気の4人に移植した臨床研究の成果を踏まえ、今年度にも阪大発の新興企業「レイメイ」(所在地:大阪市)が治験を開始し、実用化を目指す。
同チームが行った臨床研究について、全員の安全性が確認され、視力が回復したとする論文が、このほど国債医学誌『ランセット』に掲載されたことを受けたもの。iPS細胞を角膜の透明な細胞に変化させ、円形のシート(直径約3.5cm、厚さ約0.03ミリ)に加工。2019〜2022年、重症の30〜70歳代の男女4人に移植して経過を観察した。治験は患者数を増やすなど、規模を拡大して実施する計画で、再生医療の実用化を加速させていきたいとしている。
荏原 ロケット 電動ターボポンプで極低温流体試験に成功
荏原製作所(本社:東京都大田区)は11月8日、2022年から開発を進めているロケットエンジン用電動ターボポンプで、2024年9月にに実施した液体窒素による性能試験に成功したと発表した。今回、試験を実施した電動ターボポンプは、ロケットエンジンに液体メタンを燃料として供給することを想定。試験は9月6〜13日、宮城県のJAXA角田宇宙センター内の極低温ターボポンプ試験設備で実施された。
実際のロケットエンジンの燃料と同様に極めて低い温度の液体窒素(−196℃)を作動流体として使うことで、低温環境独特の課題に対する設計・製造条件を確認した。この試験の成功は荏原が目指す宇宙への低コストで自由度の高い輸送手段の確立に向けた大きな第一歩としている。
光量子計算機 年内稼働へ 国内初 室温で高速度 理研,NTTなど
理化学研究所とNTTなどのチームは、次世代の計算機「光量子コンピューター」を年内にも稼働させると発表した。国内では初めて。
量子コンピューターは、ミクロの世界に特有な物理法則「量子力学」を利用して計算を行う。日本では昨年、理研や富士通、大阪大学などが相次いで国産の量子コンピューターを稼働させている。ただ、いずれも計算を実現させる素子「量子ビット」に超伝導回路を使う方式で、極低温の冷凍機内で稼働させる必要があった。
今回の光量子コンピューターは室温で稼働可能で、消費電力を抑えることができ、「光」を使うため計算速度が速く、高度な計算処理ができるという。インターネットのクラウドを介して、共同研究を行う大学や研究機関の研究者が利用できるとしている。